忘れられる権利とは?
忘れられる権利とは、主にインターネット上におけるプライバシー保護の観点から主張される権利の1つであり、具体的な内容としては、インターネット上にある個人情報を検索結果から削除してもらうように大手の検索サイトなどに要求できる権利のことを言います。
つまり、例えば、自分の名前を大手の検索サイトに入力して検索した場合に、自分の名前を含むホームページを検索結果として出現しないように、大手の検索サイトに対して要求する権利です。容易に想定できるケースとしては、悪意のある第三者が自分に対して事実とは異なる誹謗中傷を書き込んだホームページであったり、意に反して公開された自分の裸の写真を含むホームページを検索結果から削除するケースです。
これまで、インターネットにアップロードされたこれらの情報は、検索サイトを介して拡散され、半永久的に存在し続けるといってもよい状態にありました。ただし、ここで、注意をしなければならないのは、この権利によって達成されることは、検索の結果として表示されないということであり、実際にそのホームページそのものをこの世から存在しないようにはできていない点です。
EUの忘れられる権利が認められた経緯と日本への影響
この権利が世界中で注目されるきっかけとなったのは、2011年にフランスの女性が大手検索サイトに対して、「過去のヌード写真」の消去を請求したことに始まります。女性は裁判で勝訴し、この判決によって、世界で初めて「忘れられる権利」が認められることとなりました。さらに、EU司法裁判所は、2014年にも、一定の場合に、検索事業者に対して、検索結果から自分の過去の情報の削除を求めることをできるという判決を下しています。
日本においても、世界的な流れを汲み、個人のプライバシーや名誉毀損に配慮した対応が取られつつあります。例えば、大手検索サイトは、特定の情報を検索結果から削除する方法について自主的に情報を提供していますし、そのガイドラインについても検討を行っています。
一方、法律的には、地方裁判所で「忘れられる権利」が明示された一方で、東京高等裁判所ではその判決が取り消され、従来の名誉毀損やプライバシー侵害から独立して判断されるものではないとしています。したがって、現状において、日本では「忘れられる権利」という独立した権利は認められず、従来の名誉毀損やプライバシー侵害に基づき、検索結果から削除を要請する必要があると言えます。その場合、欧州等に比べると、忘れられる権利に相当する権利を行使し難くなるのではないかと懸念されています。
逮捕歴を持つ男性が、米グーグルなどの検索サイトから自身の逮捕歴に関するURLリンクなどを削除するよう求めた裁判で、最高裁判所は2017年1月31日、東京高等裁判所の判決を支持し、請求を退ける決定を下した。
というニュースが流れました。忘れられる権利に関する特別な言及はなかったものの、「逮捕歴」など、社会の公共性、公益性に配慮しながらプライバシー侵害とのバランスをとっていくものだと考えられます。
ネットの名誉毀損と慰謝料
よくニュース記事などで名誉毀損で告訴するといった言葉を耳にすることがありますが、名誉毀損の言葉を正確に知る人は少ないかもしれません。
名誉毀損とは不特定または多数の人達が認識できる状況で、個人の社会的評価を貶める発言、または行動を取った場合に認められる法律です。
この不特定または多数の人達が認識できる状況というのが肝心で、例えば個々人で対話している状態では誹謗中傷となるだけで意味を成さないことになります。分かりやすい状況としては、多くの人が集まる会議やパーティなど、人の目や耳がある場所で誹謗中傷を行う、あるいはインターネット上の書き込み、雑誌や新聞といったメディアが考えられます。
これらは関係者だけでなく不特定多数の人が目にするものなので、具体的な内容が書かれていれば名誉毀損が成立することになります。ちなみに名誉毀損は刑事事件と民事事件の2つに分かれていて、刑事事件は警察や検察庁に告訴する方法で、民事事件は自ら裁判所に趣いて名誉を傷つけた相手に裁判を起こして、名誉毀損で慰謝料の損害賠償請求を申し立てることになります。
参考サイト:「ネットで名誉毀損された時の対応方法!慰謝料相場は?」
ネット誹謗中傷弁護士相談Cafe|風評被害対策・2ch削除依頼
慰謝料とは?
このときの損害賠償請求が慰謝料と呼ばれるもので、範囲が広いですが基本的には告訴する相手によって肉体的または精神的な苦痛を受けた場合であって、本来なら金銭では評価できないものをお金で賠償させる行為です。
ただし、慰謝料には財産的損害に関しては含まれないため、例えば名誉毀損によって仕事を追われ、離職することになった、仕事ができなくなって将来に得ることができるはずだった給与などに関しては慰謝料とは別に計算されることになります。
当然ながら名誉毀損で告訴すれば様々な損害賠償を請求することができるので、原告側に非がなければ、被告側は予想以上のお金を支払わされることもあります。ちなみに名誉毀損について精神的苦痛を受けたとしても、必ずしも損害賠償請求が通るとは限りません。
被告人の発言が公共の利害に関して事実である、公益を図る目的に出た場合、摘示した事実が真実であると証明されたとすると、不法行為にはあたらず賠償請求が認められなくなります。例えば政治家が汚職に関して様々な意見が飛び交うという状況で、事実に基づいた発言であった場合で真実だと認められると、嘘ではない発言となるため名誉毀損にはあたらないことになります。名誉毀損の慰謝料は高額になると考えられがちですが、意外と金額に評価されるのは少なく、一般人であれば100万円も満たないことがほとんどです。ただし、発言力のある著名人が加害者になった場合は、知る人も増えるため評価額が跳ね上がります。